健康談義2015/9/2

日本の医学の発展と進歩は素晴らしい。がんは治る病気となってきた。日夜研鑽される医学を支える皆さんにエールを送りたい。


 私の最初の入院体験は、半世紀も前の話、20代で元気も盛りの時だった。
交通事故で全身打撲、全治1か月と言われながら、病院のベッドでエロ本など読んで、暇つぶしに気を紛らわせたが、それでも退屈のあまり5日目には逃げ出した。若さにとっては、傷の痛さより退屈のほうがいやだったのだ。

 さすがに、この歳で病院でエロ雑誌をと、そんな若さや根性は持ち合わせていなかった。癌と判定されたのがショックだったのだろう。殊勝というか、いずれも五木寛之著の仏教に関する本だった。「親鸞」上下巻、「天命」、「生きるヒント」だった。
 いずれの本も仏教の世界を題材にした話、がんと言われて、普段は考えてもいない死を身近に感じた男の心情の現れだろう、平生を装っていても、不安や心配、恐怖が心の中で渦巻いたのだ。何かにすがりたい気持ちがあったのだろう。

 6月の胃がんの摘出手術の時は、看護師の研修生が付いた。
暇つぶしには最高の話相手になってくれた。21歳かわいい女性、来年国家試験を受けて正式に看護師となる。見習いの勉強に来ていたのです。
 毎日、話し相手になってくれる。別の階には売店や食堂、携帯電話のできるところとか、外の景色を眺めながら話のできるところがある。

検査入院の初日から、いろいろ世間話をしていたのですが、
「手術の見学をさせてもらえませんか?」
「いいよ!」
別に、見られて減るもんでもあるまいし・・・。
「その代り僕のデジカメで手術の模様を撮ってくれませんか」
聞いて返事をするとのことだったが、手術前なのにカメラは取りに来なかった。
素人撮影など手術の邪魔、禁止は当然、自分では納得していたのだが・・・。
 
 でも彼女が9時間に及んだ手術の模様、後から一部始終を私に話してくれた。
胃を切除しお腹から取り出す、最後に代用胃を作るところまで。
 2つのアームを使って食道と十二指腸の間に、模擬の小さな胃を作った緻密な作業が仕上がったとき、感激のあまり思わず胸の前に手を合わせて、何か大声で叫びたい気持ちだったと・・・・。代用胃は聖マリアンナ医科大学のオリジナルなのだ。
 
6時間で昼食をはさんで見学を終わったそうだが、あと3時間がまだ手術が残っていた。
胃ではなく腸が2ヵ所癒着していた。
先生曰く、
「以前、開腹手術などしたことがありますか」
「いいえ」
「・・・・」
結局、腸の癒着原因、先生は何も言ってくれませんでした。

私にはそのわけは分かっていたのです。
あの交通事故の時にやったのか、いや違う・・・。
大学のボクシングをやっていた時、腹筋を鍛えるために、腹を殴ってもらったり、寝転んだ腹の上をシューズをはいて踏んでもらって腹筋を鍛えていた。今から考えると不合理な野蛮な練習をやっていたものです。痛めつけては、また腹筋台で運動を繰り返していた。練習後のお腹の痛みは尋常ではなかった。下痢・腹痛は当たり前、血便が出たこともある。2~3か月も続いたでしょうか痛みから解放されると、下腹には横の線がばっちり、腹筋が盛り上がって、少々の打撃では全然動じない強靭な体になっていた。

 前の試合でめちゃめちゃに殴られ、その復讐心に燃えた若さがの名残りなのでしょうか。あの時の馬鹿げた練習の痕跡が腸の癒着として今まで残っていた。傷ついた腸と腸が半世紀もくっついていたのです。癒着を解くのに、余分の3時間を要した。半世紀の癒着を切り離したのですから、あまり丈夫でない私の腸にとっては、その反動もただ事ではなかったはず。その上、また短期間で肺の手術もやったから、普段の生活を取り戻すには、時間がかかるのも当然覚悟しなければなりません。納得したのです。

 むしろ予定外の余分な手術、毎日仕事としてやっている先生方やそれを支える人々には頭が下がる、ただ感謝、敬服するしかない。本当にありがたい。
日本の医学の発展と進歩は素晴らしい。がんは治る病気となってきた。日夜研鑽される医学を支える皆さんにエールを送りたい。

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