かつひこ日記NOW

2016/07/18

「開かれゆく」

私の人生にとって、人の影響を受けるということは、大学に行くまでありませんでした。そう言う意味では、大学に入って良かったと思っています。それまでは家族と学校の友達くらいでした。その点、大学は、全てに目を開かれたと思っています。影響を受けた人達もいます。友人に松田というのがいました。彼とは、話しがしやすくて、何でも尋ねていました。いつも、一緒に行動していたと思います。彼は同級なのに年令が二級上でしたから、何でもよく知っていました。彼は、中学の美術免許を取る専攻科にいたのです。美学の教授に濱田という先生が居られました。偉いというか、貴いというか、尊敬できる先生でした。美学の教授ですが、美学についての記憶はありません。ただ、先生の私達にお話しされる態度を覚えているのです。何か、私達を同級生のように扱って下さったような気がするのです。いつも笑顔を絶やさないで、嫌な思いをさせないように気をつけてくださって居られたような。そんな先生でした。私と松田はよく先生のお宅にお邪魔しました。いつも、温かく迎えてくださいました。奥様も優しい方で、先生のことを私達と同じように、「先生」と呼ばれていました。先生は、毎日、座禅を絶やさない方でしたので、丁度座禅の最中にお邪魔することもあったのです。私にとっては、この座禅をするということが不思議なことでした。私の回りにそんな大人は居なかったのです。座禅ということがどんな感じのことか興味津々たるものがありました。座禅が終って私達を前にされると「色即是空」と仰られたのです。しかし、その言葉の意味はわからないままでした。私は先生のお宅を訪ねて何が嬉しかったというと、先生の書斎と先生の生活の有り様でした。それまで、大人の生活を知りませんでしたから先生の生活は私には魅力的でした。机の上に置かれたものが美しかったのです。筆や、ペンを入れた小さい壷でも私には魅力でした。タバコ入れるものも美しいのです。部屋のあちこちに置かれたものが美しいのです。私は、いつかこんな生活ができたらと思いました。私達学生に対する姿勢も、尊敬できることが多かったのです。いつも私達を前にされる時、ご自分の生活の問題を正直に語られるのです。そして、生き方のお話しをしてくださいました。これも、尊敬できることのひとつでした。ベレー帽に眼鏡をかけ、背が高く、いつ見ても、何か違う上品さがおありでしたた。先生の授業は全て受けましたが、全てが「優」でした。先生は、東京美術学校を首席で卒業されたと先輩は言っていました。友人に須田国太郎がいて、彼はよく先生のお宅に逗留していたと聞きました。

「知解は浅いです。次に情解です。心解は深いです」

奈良の小学校に勤めるようになって最初に知ったのは、数学者の岡潔先生でした。私の担任の子供を奈良まで毎日送っていましたので、先生のお勤め先が奈良女子大でしたから、行けば直ぐのところでした。女子大の校門迄は行くのですが、中に入ることができませんでした。それで先生の御自宅に行こうと思ったのです。先生の御自宅は街から大分離れたところにあって、歩くと30分くらいかかるところでした。先生の住所は知っているのですが、見つかりません。一回目はあきらめて帰って来てしまいました。二度目はきっと大丈夫だと思っていったのですが、見つかりません。不思議なことでした。住所に間違ないと思っていましたから、府に落ちません。結局、発見した時、私が探している家がもっと、普通の家を想像していたからです。ちゃんと玄関があって、という風に想像していたのです。ところが、私が小屋のような建物に背もたれしながら探していたその背もたれの家が、実は先生の御自宅だったのです。余りに小さいので、家と思っていなかったのです。まるで、私でも作れるというほど小さな家だったのです。私の背もたれのところに岡潔の字を発見した時、あの文化勲章に輝いた人の家がこの家とは想像できなかったのです。私は、おそるおそる、その犬小屋のような小さい家に潜るように入って見ました。入ると女の人の靴が一足ありました。そして次にピアノがあったのです。左を見ると、先生らしき人が布団に這いつくばってタバコを吹かして居られました。奥様が出て来られて私は自分のことをお話しさせていただき、左の隅っこに座らせて貰らったのです。私が入って来ても先生は我関せずで私の方を見られることはありませんでした。私はずっと先生を見させていただきました。先生はタバコの灰が布団の上に落ちても払うことはありません。私は学者というものに羨ましさを感じていたのです。こんな、贅沢な我が儘な自由な生活ができるんだと思いました。着ているものはゆかたのよれよれの寝間着です。ひげは延び放題、髪はばさばさ、私は先生のお姿を眺めているだけで幸せでした。斜め上を眺めたまま、全然、動きはありません。にわかに、先生が立ちあがりました。私の前を通るとき、「モーツァルトは空間的です。ショパンは時間的です」前方上を向いたまま、そのお言葉を残してまた、あの万年床に入られました。私は十分満足でした。奥様に「いい勉強をさせていただきました。有り難うご座いました」とお礼を述べさせていただいて、外に出ました。素晴らしい映画を見た思いがしたのです。私は嬉しくて、奈良駅迄、休まずいっきに走りました。次にお邪魔した時、「知解は浅いです。次に情解です。心解は深いです」また、次にお邪魔した時、先生は、皿を二枚出されて、二枚をはすかいに並べられて、「ねえ、優しいでしょう。」そして、二枚をきちっと平行に並べ換えて、「ねえ、冷たいでしょう」と仰られました。私先生のお話しは、咄嗟には、理解出来ないのですが、暫くしてわかりました。


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