かつひこ日記NOW

2016/06/15

「結核」

ついに、来るべきものが来ました。
広島大学の競技大会が、最後の競技大会だったのです。帰って、一年に一度の学生の定期検診がありました。もちろん私は、試合に出場するくらいですから、身体に自信はありました。しかし呼び出しがあったのです。聞けば、一寸おかしいというのです。一度、日赤病院へ行きなさいということになったのです。日赤病院に行く前にお城のあった小高いところにある久松公園をジョギングして、その足で日赤病院に入ったのです。指定されたところでレントゲンの説明を受けましたが、「これは、ひどい、直ぐ、入院しなさい」ということになったのです。すでに「菌が出てる」と言われたのです。仕方ありません。すぐに、岡山に帰りました。一年に一度も帰らない私が帰って来たのですから、両親は驚きました。丁度稲刈りの最中でした。私の顔をみて。何か、あったらしいと察知したらしいのです。丁度、その頃、教育長をしていた、母の義兄が結核で入院していたのです。その岡山市にある、結核療養所にすぐに紹介してもらって入院が出来たのです。「後1ヶ月ほって置いたら、あんたは、大喀血で死んでいる」といわれました。思っていたより重症でした。両肺に6個の空洞があったのです。安静度2度の最も重い状態だったのです。とにかく、風呂も入ったらいけない、完全看護でした。ですから、身体は、全部看護婦さんが拭いてくださっていました。絶対安静だったのです。それまでの疲れが、どっと出てきて、毎日眠り込んでいたのです。個室で、完全看護で眠るばかりの生活でした。どこへも、出ることもできませんでした。不思議なほど、身体が動かないのです。3ヵ月ほど眠ってばかりしていましたら、やっと、外へ出れるようになりました。そんな時、友達が出来ました。私より3年上の東大理科の学生でした。勉強の嫌いな私とは、随分違っていて、それでも、何故か、話しが合ったようです。それからは時どき会うようになりました。ある日「明日、前の川へ行こう」という約束をしました。兄にもらったカメラを用意して待っていました。約束の時間がきているのに現われないので、彼の部屋へ行こうと思い、歩き出しました。廊下の角を曲がったところで、「彼、居る」と尋ねましたら、「ああ、さっき、死んだわよ」と平気な口調で言うのです。私は彼の部屋に入りました。彼は鼻に脱脂綿を突っ込まれて仰向けになって寝ていました。上半身、裸でパンツ1つの格好でした。彼はまだ、生きてる感じだったので、私は彼を揺すりました。すると、まるで、木を動かしているような感じがしたのです。「ああ、本当に死んでいる」と思いました。私は、彼の側に暫く座っていました。

「勿体ない死」

何という、あっけないことかと思いました。まだ、23年生きただけなのに勿体ない、何と行っても勿体ない、残念で仕方ありませんでした。今日は川で二人で遊ぶ約束をしてたのに、何ということかと思いました。もちろん、仕方ないことではありますが、辛いものでした。なんとも言えないものでした。それにしても残念です。何と行っても東大の学生です。これから期待された人です。今までも、どれだけの期待を受けて、来た事だろうかと思いました。それが今、彼はもう語ることが出来なくなっているのです。目もみえない、耳も聞こえない。ただ、上を向いて目を閉じているだけでした。

「彼の語り」

そんな彼の側で、私は、ただ座っていました。そんな彼が、何か、語り出したような気がしたのです。
「佐藤は、いいなあ。佐藤は生きてるもんなあ。佐藤は目が見えるもんなあ。佐藤は手が動くもんなあ」
私は、今まで、自分の目が見えることを「いいなあ」と思ったことはありませんでしたし。手が動くことだって、それが特別、「いいなあ」と思ったこともありませんでしたし、思えることもなかったのです。ですから「何がいいものか」と思っていました。
本当に、辛いことばかりだったのです。私ほど、ついていない、運の悪いものは、いないと思っていました。秀でたものがないし、貧乏だし、勉強も出来ないし、女の子に持てるようなこともなかったし、なにひとつ自慢できるものはなかったのです。1つでも、何か自慢できるものをつかもうと、水泳で頑張ったけど、結局は結核になったし、結核になって、治るかどうかわからないのだし、いつ、自分も喀血を起こすかわからないのだし、もう、きっと、就職は出来ないだろうし、例え、仕事があっても内職のような仕事しか出来ないだろうし、 何をして、生きていけばいいのだろうと、暗い気持ちで過ごしていました。結核が見つかったのも、学生2000人の中のたった一人だったのです。何という運の悪い男なのだ、と思っていました。しかし、彼はまた、言うのです。
「佐藤はいいなあ。生きてるもんなあ」「凄いなあ。歩けるもんなあ。思うことだって出来るもんなあ」
私はだんだん、「それも、そうや」と思えて来たのです。不思議なことです。何故かわからないのですが、彼の話しは、「そうや」と、素直に、思えたのです。
たしかに、生きてるだけでも、彼と比べたら、凄いものです。実際、歩けるのです。目が、見えるのです。動かない彼と比べて、私は、動けるのです。
「俺は、生きてるんだ。歩けるんだ。目が、見えるんだ」と、不思議なことに、そう思えて来たのです。
何か嬉しいような気がして来ました。不思議です。こんな思いをした事がないので、ただ、ただ、彼の顔を、見つめていました。不思議な事です。本当に不思議な事です。私の中が、煮えるような感じがして来たのです。
「私は、生きてるんだ」何回も、確認しました。「生きてるだけで凄い」と思えたのです。
「俺は凄い。俺は凄い」
身体が、凄く、燃えるような感じでした。
「俺の分、生きてくれや」と言ってるようでした。
「ああ」と、うなずいたような気が、しました。
看護婦さんが入って来て。「もう、いいでしょ」と言いました。私はドアの外へ出て、もう一度、彼に向かって「ありがとう」と言いました。私は彼の死が悲しいという気がしなくなっていました。それより、私の方が、彼からカを貰らったのでした。私は廊下を、跳び跳ねるように、天井につかんばかりに走って帰りました。部屋に入って、もう一度確かめていました。「俺は生きてる。俺は生きてる。」と
何回も確認しました。

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